「ポン」と音を出しただけで、聞いているものをうならせることができる楽器が「鼓(つづみ)」ではないでしょうか。
鼓は楽器としてまれに見るほど精巧な設計がされています。
鉄輪に張った吟味された馬の皮2枚を「調べ緒(調べ)」と呼ぶ朱の麻紐(精麻からできていて、この締め加減で音を調整)で、桜材の胴の両端に取り付けています。
そして圧倒されるのが掛け声。奏者は鼓を鳴らすだけでなく、「イヨー」「ホー」「イヤー」などと拍の間に声を発します。
能、歌舞伎、その他の民俗芸能で幅広く活躍する鼓は、多くの場合、小鼓と大鼓がセットでつかわれます。小鼓は、その弾力性のある音と掛け声で他の楽器をリードしていき、大鼓は乾いた高く鋭い音で小鼓とからみ合います。
胴に施された、きらびやかで、かつ、いにしえの人々の絆を感じさせる装飾は、その美術的価値も高いです。
もう1つ、忘れてはならない楽器が締太鼓(調べ緒を締めて調子を整えるため、こう呼びます)。
指揮者のいない日本の芸能において、能の3打楽器(小鼓、大鼓、締太鼓)がそれぞれの掛け声を交差させながら、音楽的なニュアンスを表現するさまは、外国人でなくても驚くでしょう。
それは、自然と融和する言語である日本語(母音言語)をつかう日本人だからこそ、できるのだと思います。
・参考文献