天照大御神がお召しになる衣を奉る「神御衣祭(かんみそさい)」

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皇祖・天照大御神(あまてらすおおみかみ)をお祀りし、日本国民の総氏神として崇敬される伊勢神宮

毎年5月と10月の14日に神宮でおこなわれる「神御衣祭」では、天照大御神に「和妙(にぎたえ)」「荒妙(あらたえ)」の2種の神御衣(かんみそ、神様がお召しになる衣)が捧げられます。

「妙」は布を指し、和妙は目が細かくやわらかな絹布、荒妙は目が粗くかたい麻布です。以前、徳島・木屋平の阿波忌部直系、三木家の第28代当主、三木信夫さんをたずねた際、大嘗祭に調進される麻織物、麁服(あらたえ)の「あら」とは「向こうが透けて見えるという意味」と教わりましたが、日本語は言霊ですのでその意味は同じようです。

和妙は内宮(皇大神宮)の所管社である神服織機殿(かんはとりはたどの)神社、荒妙は同じく神麻続機殿(かんおみはたどの)神社の機殿で、古式のままに織り上げられ、奉職の前後には両社で祭儀がおこなわれます。

神宮の恒例祭典のなかでも、神御衣祭は神嘗祭(かんなめさい)、月次祭と同じく神宮固有の祭りであり、ご鎮座当初にさかのぼる由緒を持ちます。

大宝元(701)年に制定された「大宝律令」の「神祇令」には、朝廷の祭祀をつかさどる神祇官が関与する国家的祭祀として「神衣(かんみその)祭」が挙げられています。

また、延暦23(804)年に神宮から朝廷に撰上された「皇大神宮儀式帳」や、延長5(927)年に成立した「延喜式」の「伊勢大神宮式」には御料(ごりょう、神々や天皇、貴人が使用する物。衣服や飲食物など)の品目、数量や祭儀の詳細が記されています。

神嘗祭、月次祭、祈年祭、新嘗祭とならび神御衣祭が「大祭」とされるのも、こうした格別の由緒ゆえです。

天照大御神と神御衣との関連性ついては、古事記や日本書紀に、天照大御神が神聖な機屋で織女に神御衣を織らしめ、あるいは自ら織られた旨が描写されています。

 

春と秋にお召しものを奉ることから、神御衣祭は「神様の衣替え」であると説明されることがあります。

古くは神嘗祭の当日に神御衣がお供えされていた事実から、より深い意味をもつと想像されます。

神宮の恒例祭典でもっとも重儀とされる秋の神嘗祭は、天照大御神に新穀を奉り、大御神のご神威を更新するお祭りです。

同じように、神御衣祭の本義は、大御神に新たなお召しものを奉ることにより、ご神威のさらなる高まりを願うものと考えられます。

なお、和妙の御料となる絹糸は古来、三河地方(愛知県東部)で産する「赤引の糸」(清浄な糸の意)とされており、現在は愛知県の豊田市稲武地区と田原市から奉献されています。

一方、荒妙の原料となる麻は、昔は近在の御麻生園で生産されていましたが、現在は奈良県月ヶ瀬で産するものが用いられています。

 

 

・参考文献

「皇室」令和6年夏103号(公益財団法人 日本文化興隆財団)

「現代語古事記」竹田恒泰著(学研)