有職故実、古来の習わしに則した神棚を探していて国産大麻(精麻)の製品を

有職故実(ゆうそくこじつ)、古来の習わしに則した神棚を探している過程で、さぬきいんべへたどり着いたというお客様から国産大麻(精麻)製品のご依頼をいただきました。(祓串が大麻比古神社と同じものであることにピンと来てお譲りいただければとのこと)

有職故実とは、古来の朝廷や武家の礼式・典故・官職・法令・装束・武具などのことで、またそれらを研究する学問をいいます。

一般に耳慣れない言葉だと思いますが、さまざまな形でそれは現代に息づいております。

 

「日々多くの方が手を合わせる神前や仏前で用いられる、いわゆる神具、仏具の麻製品は、有職故実にのっとった技法を受け継いだ職人の手でかたちにすべきだ」とは、創業120年以上、しめ縄鈴緒など神社仏閣用麻製品を手がける京都・山川の弁です。

古来の習わしが今につづいていることがたいへんすばらしいことであり、日本の伝統文化を語る上で欠かせないことだと思います。

古くて新しい伝統。すなわち、いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものも取り入れていくことも大事だと思っております。

けれども注意せねばならないのは「有職故実は生き物である」ということである。私たち現代日本人の衣食住について見ても、各人の趣味・嗜好、年齢、経済力、社会的立場などによって千変万化である。過去の時代においてもそうした例外は数多く存在したのであるから、有職故実の世界に「絶対」はない。千年の歴史の中から、ある1つの事象だけ切り取って、それを金科玉条にすることは、有職故実の本義にもとっている。〔「有職装束大全」八條忠基著(平凡社)序より引用〕

伝統と革新は表裏一体ではないでしょうか?

これからも、おお麻(ヘンプ)専門神具店さぬきいんべをよろしくお願いいたします。

 

 

2022年に出版されたお客様の本。そこから垣間見えてくるもの

昨年はお客様の本の出版がどういうわけか相次ぎました。

そのうち下記を拝読いたしました。

「Someday, Somewhere!」宙舞えみり著(幻冬舎)

「ROOTS」松坂ミキ著(文芸社)

「謡曲仕舞奉納家・一扇」宮西ナオ子著(シンシキ出版)

昨年出版されたお客様の本(宙舞えみり様、松坂ミキ様、謡曲仕舞奉納家・一扇様)
昨年出版されたお客様の本(宙舞えみり様、松坂ミキ様、謡曲仕舞奉納家・一扇様)

それぞれ簡単にご紹介しますと、宙舞えみり様の本は、4つの物語からなる小説で輪廻転生が描かれています。(宙舞えみり様は、第1回大麻の麻縄活用コンテストにて特別賞を受賞)

松坂ミキ様の本は、子育ての苦悩からその原因が先祖供養にあることを知った体験をつづったノンフィクション小説です。(本文では触れられていませんが、この過程でこちらにご紹介しましたようにご先祖が香川・誉田八幡宮の創始者、忌部正國と知ることになった由)

宮西ナオ子様は女流能の研究家、能楽博士で、お客様「謡曲仕舞奉納家・一扇」様のプロフィール本をお書きになりました。令和の新しい「能」としての「みろく涼香舞」誕生の経緯が記されています。(ご紹介していますように本の表紙の前天冠は国産精麻五色房付きです)

なお、これらの本は、出版を知った順に上から並べていますが、だんだん核心に迫っているように感じます。核心とは、さぬきいんべの目指すもので、具体的にはキャッチコピーの「日本の伝統文化を継承し、光あふれる世界へ」ということです。

”光あふれる世界”というのは実はこれまでイメージだけで漠然としていましたが、今年になって、病なく、貧困もなく、争いもない人類理想の世界、「ミロクの世」ということに気づきました。これは、一扇様の本を読んだり、ご本人様とメールで交流したりするうちに思い出しました。

鏡に映る姿をみて、自分を知るような感じです。

お客様で本を出版された方がいらっしゃいましたら教えていただけますか?

3年ぶり通常通り斎行。地元「西条まつり」における祈りと祭りの継承を思う

3年ぶりに地元、西条まつりが通常通り開催されることに。

「西条まつり」とは、五穀豊穣を神に感謝する神事で、愛媛県西条市内に鎮座する伊曽乃神社、嘉母神社、石岡(いわおか)神社、飯積(いいづみ)神社の4つの神社の例祭(秋祭り)の総称です。

祭りの期間中は、学校が休みになり、学校も参加を奨励していましたので、だんじりや太鼓台についてロープを引っ張ったり、太鼓をたたいたり、楽しい思い出しか残っていません。

そのためだと思います。地域に根付いて、会社やお店が休みになったり、お盆や正月に帰省しない人でも祭りには帰ってくるといわれています。

私は2010年まで香川県に住んでいました。(やはり、祭り期間には)毎年帰りたいと思ったものです。

2007(平成19)年に香川県立ミュージアムで「讃岐の祭り展」を開催の折、中四国の自治体を対象に祭りのポスターを募集したところ、1番に届いたのは西条市(西条まつり)で、2番目は新居浜市(新居浜太鼓祭り)だったそうです。新居浜市はポスターを持参してきたと聞きました。

それぐらい祭りにかける思いが熱いのが西条市と新居浜市だと思います。

この話は以前、前職が同ミュージアムの学芸員だった愛媛大学法文学部の胡(えべす)光先生の講演で聞き覚えています。

お祭りの高揚感、躍動感は何とも言えません。日本人のDNAに組み込まれているかのような祭囃子のメロディや掛け声は切っても切れないものだと思います。

西条まつりで麻(精麻)がつかわれているか調べたところ、神社や各神楽所での神事の際の大幣でつかわれています。(巫女による浦安の舞の奉納もあります)

伊曽乃神社の堀川修巧宮司は今年6月発行の社報のなかで、下記のように述べておられます。

ご先祖様たちが千年二千年と護り伝えてきた大切な「祈り」と「祭り」を後世へつなげていかなければなりません。1日も早く日常が戻り、いつも通りの祭りが斎行できることを切に祈っています。

神事の作法、屋台の組み立て、囃子、提灯の制作など祭りにかかわる伝統文化は幅広いです。ここに精麻をふくむ、麻の文化も入ります。祭りの中断はこの伝統文化継承に非常に大きな影響を及ぼすことがこの2年でおわかりになった人も多いのではないでしょうか。

無事に祭りが実施され、町に祭り囃子が戻りますように。

 

 

・参考文献

「礒野」伊曽乃神社社報(2022年6月発行)

 

 

京都の装束店の女将から感じた3つの私との共通点

先日、京都へ行ったみぎり、玉造りをされてる青舟さんが「黒田装束店」へ行きたいとのことでついていきました。

黒田装束店は京都御苑の堺町御門前に立地しています。

黒田装束店(京都市)の入口
黒田装束店の入口(しめ縄がはってあったのでパチリ)

中へ入り出てきた男性に青舟さんが用件を告げると、1人の女性が出てこられました。私は目を疑いました。「ん、若い!」

建物内の雰囲気からするとお婆さんが出てくる感じで、私は何度も目を疑いました。(さすが京都)

あとで調べてわかったことですが、この方は女将で黒田知子さんといい、宮廷装束に使われる「有職(ゆうそく)織物」の美しさを多くの人に知ってもらおうと、装束に使う布を使った袋や名刺入れなどの小物作りをプロデュース、「堺町御門前 平七」というブランドで展開していらっしゃいます。

青舟さんは製作した「勾玉を入れる袋」にとこの平七の小物をwebで探しだし購入、それで店にも行きたいと思われたようです。

黒田さんが奥から出してきた小物を何点か見せていただきましたが、女性の感性ですね。巾着袋、ペンケースも。伝統的な文様、生地、そして繊細で細やかさを感じました。現代風に仕上げられています。

そして、価格が安い。「もっと値段を上げたらいいのに」とよく言われますと黒田さん。

日本文化系の雑誌「和樂」にも平七の小物が紹介されています。(店頭で2冊見せていただきました)

黒田装束店を出て、何か黒田さんと共通点を感じる思いがわき上がってきました。というのは、1.私は国産精麻でできた現代に合う小物を展開する役回りになっていること、2.価格のつけ方が平七と同じではないかということ(多くの人に手に取っていただきたい)、3.日本の伝統文化を伝えたいと思っていることです。

店にいたのは30分くらいでしたが、プロの世界を垣間見ることができ、同じような気持ちでがんばっている人がいるんだと刺激を受けた出来事でした。

精麻についておさらい

精麻とは、アサの茎から表皮をはぎ、そこから表皮など余分なカスを取り除いたものをいいます。

黄金色でツヤがあり、新聞の文字が見えるぐらいに薄くひかれたものが上質とされます。(「色・ツヤ・薄さ」と私は覚えています)

なお、ちょっと古いですが福山雅治主演のNHK大河ドラマ「龍馬伝」で岩崎弥太郎宅の納屋に干している黄金色のは精麻と思われます(同ドラマでは栃木県鹿沼市の麻農家、大森由久さんが麻縄づくりを指導)。

今日では、神仏具や縁起物としての利用が多いです。

神道では麻は「神様のしるし」あるいは「神様の宿る神聖な繊維」とされ、神官がつける狩衣なども麻で作られています。また、お祓いの時に使用する幣や鈴緒などにも麻は欠かせません。

縁起物としては、結納で取り交わす友白髪があります。そして、魔をはらうなど呪術力があると考えられていて、ほかにもヘソの緒を縛る糸や死に装束、地域の祭礼など人生の節目や季節の節目に使用されてきました。

 

日本最大の生産地である栃木県で生産されたアサは、生産農家によって精麻、皮麻、苧幹などに加工され、野州麻の名称で全国に流通しています。

かつて、同県では生産地によって引田麻、把麻、岡地束、引束、板束、長束、岡束、永野束などの銘柄があり、結束の方法が異なっていましたが、栃木県では1933(昭和8)年に「麻検査規則」(昭和8年7月11日栃木縣令第46号)を定め、その統一を図りました。

同時に品質の統一を図るため、同年10月より等級検査が実施され、規格の統一が図られました。その結果、精麻は極上、特等、1等、2等、3等、4等、5等、等外の8つに区分されました。

検査は肉眼で行い、品質、長短、強力、色沢、乾燥、調製、結束の各観点より等級を定めました。例えば精麻の極上は「最も光沢に富み、清澄なる黄色か黄金色。手さわり、調製、乾燥すべてに最もすぐれ、繊維が強力なもの」、特等は「光沢に富み、清澄なる黄色か黄金色ないし銀白色。手さわり、調製、乾燥に最もすぐれるもの」などとし、それぞれの基準が設けられました。

野州麻(精麻)の利用 大正時代と現在
大正時代 現在
主な用途 出荷地 主な用途 出荷地
下駄の鼻緒の芯縄 栃木・東京・大阪など 神事・祭礼・縁起物用 全国各地
軍需用(綱・縄) 東京・神奈川など すさ(寸莎、建築用、壁のつなぎ材) 全国各地
綱の原料 東京・神奈川・愛知など 下駄の鼻緒の芯縄 東京・栃木など
魚網 茨城・千葉・神奈川など 綱(凧糸・山車綱等) 静岡・新潟など
衣類・蚊帳地 滋賀・奈良・福井など 衣類 滋賀・奈良など

(主な用途および出荷地の配列は出荷量の多さとは対応していない)

なお、栃木県でニハギ(煮剥)、精麻と呼ばれるものが、麻生産の歴史が古い広島県近辺ではそれぞれ、アラソ(荒苧・粗苧)、コギソと呼ばれます。

麻の茎の皮を剥いで精麻にするまでの工程は、地域によって多少のちがいがあります。

収穫後、麻の茎を折らずに蒸すところもあり、その場合は高さが2~3mにおよぶ桶が使用されました。こうした桶は、青森県立郷土館(青森市)、宮古市北上山地民俗資料館(岩手県宮古市)、朽木郷土資料館(滋賀県高島市)、石川県立白山ろく民俗資料館(石川県白山市)、広島市郷土資料館(広島市)、四国村(高松市)、宮崎県総合博物館(宮崎市)など全国各地の博物館施設で見ることができます。(その多くは麻だけではなく、楮や三椏などを蒸す時にも使用されたそうです)

 

 

参考文献

・「地域資源を活かす 生活工芸双書 大麻あさ」倉井耕一・赤星栄志・篠﨑茂雄・平野哲也・大森芳紀・橋本智著(農山漁村文化協会)

・「日本の建国と阿波忌部」林博章著