高知県在住の染織作家、宮崎朝子さん
~製作の現場をたずねて~
手織り約30年、高知県在住の染織作家、宮崎朝子さん
四国・高知県の中西部、海沿いの静かな集落、中土佐町矢井賀。
人口200人あまりが暮らしている海と山に囲まれた地区ですが、そこで染織作家、宮崎朝子さんは仕事をされています。
東京在住時、馬場きみ氏(「経と緯の会」主宰)に師事、1986年に手織りをはじめて約30年になる宮崎さん。
素敵な自然な風合いの作品を次々と制作されている宮崎さんの創造の場、「天の川工房」へ2015(平成27)年6月5日にお邪魔させていただきました。
自然に寄り添う暮らし、染色に用いる植物は近場で調達
宮崎さんは、ここ矢井賀に移住して15年以上。古民家風の家を自宅兼工房としています。
自然豊かな印象の矢井賀地区ですが、染色に用いる植物はほとんど近場で調達しているそう。また現在、藍(タデアイ)や日本茜などは家のすぐ近くの畑で栽培しておられます。
植物染料を煮出すのに使用するカマド。 |
台所には昔ながらのカマドがあり、以前からあったものを復活させ植物染料を煮出すために使用しているそうです。カマドは、おき火ができるため弱火で長い時間、抽出でき、たいへん重宝しているとのことでした。(天の川工房の布は、糸の状態で染める“先染め”の糸で織ります)
天の川工房では環境・安全性を配慮したモノ作りをしています。 媒染剤(色止め・発色用)・助剤等に劇薬は一切使用していません。 ・アルミ媒染/酢酸アルミ(ミョウバンより糸を傷めない) ・鉄媒染/おはぐろ液(古釘をお酢で煮た自家製鉄液) ・銅媒染/銅片を酢酸につけた自家製銅液 その他、植物により酢・灰汁使用。 工程1《染液作り》 (1)植物をハサミ等で細かく切って鍋に入れる。 (2)水を入れて火にかける。 (3)沸騰まで時間をかけ(1時間くらい)、沸騰後も40分以上煮出す。 (4)ざるで漉してバケツまたは他の鍋に染液を移す。 (5)ざるに残った植物を鍋に戻し、水を入れて再び火にかける。 (6)この作業を繰り返し、最低3回は染液を取る。 (7)3回分を一緒にして冷ます。 《染め》(1)あらかじめ水に浸しておいた糸または布を軽く脱水し、染液に入れる。 (2)時々混ぜながら1時間くらいかけて沸騰させ、そのまま一晩置く。 《媒染》(1)媒染剤をぬるま湯で溶かし、染めたものを軽く絞って浸す。(20分) (2)水でよくすすいで脱水する。 《染め》(1)さきほどの染液に戻して沸騰させ、一晩置く。 (2)ゆすいで干す(日なたで短時間で乾かす)。 工程2 (1)乾かして2~3日おいてから1の工程を繰り返す。 (2)気に入った色になるまで(特に濃い色)繰り返す。 使っている植物のほとんどは、身の回りに自生しているものや畑で栽培したもの。カマドでゆっくり煮出した植物のエキスから生まれた自然の深い色合いが特長です。 |
織機で作業をする宮崎朝子さん。 |
織機にセットされた縦糸。 |
次に、織機をつかって布を織る作業を見せていただきます。ちょうどヘンプの布を織られているところでした。
使っている織機はいわゆる高機といわれるもので、足で踏み木を動かし、綜絖(縦糸をつっている部分)を上下させ杼道(横糸を通す空間)を開かせていきます。
織機で織られたヘンプ布。横糸がランダムなのが天の川工房風。 |
筬(おさ)(※)を打つトントンという音と杼(ひ)が縦糸の上を滑るカラリという音が軽快に繰り返され、だんだんとヘンプの布が織られていきます。
横糸を巻きつけて、開口した縦糸の間を通して横糸を入れる役目をする「杼(シャトル)」 |
※筬(おさ)=櫛の目が並んだようになっており、この目に縦糸を通すことによって、縦糸の密度と織り幅を一定に保ち、横糸を打ち込むようになっている。
機械織りにはできない、手織りならではの良さを追求
以前より宮崎さんの織る布は、こだわりのつまった、きれいな色彩や風合いが特長と感じていました。
お聞きすると、宮崎さんは機械織りにはできない手織りにしかできないものを追求しており、左右非対称にしたり、ワンパターンではない色使いをしてみたり、いろいろ工夫をされているそうです。
最近の作品の一例。 |
手織りの布の良さは、風合いはじめ、使い込んでいくと次第に味が出てくることなどがありますが、たとえ破けたとしても直すなどして、「(寿命まで)最後までつかってほしい」と宮崎さんはおっしゃいます。
草木染め、手織りによる布づくりから縫製まですべての工程を1人でおこない、つくった布に愛着をもっているゆえの言葉と思います。
布づくりの楽しさを手軽に体験できる、手織りキットを開発
現在、手織りの教室もしている宮崎さん。近年、布づくりの楽しさを体験してほしいと、腰機をつかったワークショップをしたりしてきました。
そして、もっと手軽にできないかと、手織りキットの試作を2014年より重ね、子ども(小学校高学年以上を推奨)でも織ることのできるオリジナル手織りキットをこのほど開発。
板に直接、縦糸をかけるのでセットも簡単だそうです。織ることのできる布は、ベルトやバッグの紐のほか、幅いっぱいに織ればコースターやテーブルセンターなどで、マフラーなど幅があるものを織ることのできる少し大きいタイプの手織りキットもあります。
天の川工房オリジナルの手織り(板織り)キット。 |
織機や道具をそろえないとできないため、ちょっとハードルの高い手織りですが、この手織りキットなら手軽に織りが体験できると、これを使ったワークショップ開催をと意気込んでおられます。
また、布がつくられる仕組みもわかり、手仕事に対する興味も高まるのではないかと宮崎さん。
思えば、宮崎さんが織られた布と出会ったのは2007年のこと。
今回お話を種々聞かせていただいて、変わらない部分と変化した部分、布に対する愛着、こだわりをひしひし感じました。
(文責・加藤義行)
天の川工房
〒789-1303高知県高岡郡中土佐町矢井賀甲410番地
TEL:0889-59-0233
http://amanogawa.ocnk.net/
宮崎朝子さんの作品はこちら♪