愛媛民芸館について
~四国唯一の民芸館~
西条藩陣屋跡で、50年以上大切なものを伝える愛媛民芸館
伊予西条藩(現 愛媛県西条市)陣屋跡の堀の中に建つ愛媛民芸館。
同館は実業家で当時の日本民藝協会会長であった大原總一郎(そういちろう)の提唱に、地元の有志・企業が応え、1967(昭和42)年6月に東豫(とうよ)民藝館として開館したのがはじまりです。
西条市は南には西日本最高峰の石鎚山がそびえ、北は瀬戸内海に面し、山と平野と海がそろった風光明媚なところですが、大原さんには先見の明があったと思われます。
それは、四国に民藝運動の拠点がまだない中、県庁所在地といった大きな町ではない、誤った先入観がないこと、また山紫水明の美しい自然があること、また権力につながらないあたりまえの生活が営まれていることが民藝の存在にとっては欠くことのできない条件であると当時、東豫民藝協会の設立総会において述べていらっしゃることからうかがえます。
心くばりで人をもてなす、初代・文野千栄子館長の思いを継ぐ
はじめて私が同館を訪れたのは2011(平成23)年2月だったと記憶しています。隣の西条郷土博物館の展示を見にきて、その時立ち寄りました。
中へ入ると男性が1人いて、話しているとその方が館長ということがわかりました。そして、館内を案内してくださり、お茶もいただきました(その時“民藝”というのがどういうものか知りました)。
たまたま館長だけしかいなかったようです。あとから考えると運命的な出会いでした(2017年度に私は同館の評議員に就任することになった)。
それから時々、訪れるように。もともと仕事で職人や手仕事のものに縁があったのですが、2015年頃からさらにその頻度が増え、それとともにだんだん民藝、手仕事の世界に引き込まれていったように思います。
季節に合わせた展示も。写真は眞鍋芳生氏(造形作家)の作品で張り子。 |
2年に1度の「現代・日本の手仕事展」に合わせ講師が来られ、ギャラリートークを開催。 |
1967年 東豫民藝館開館。(前年に東豫民藝協会発足) 1977年 開館10年を機に愛媛民藝館と改称。 1987年 開館20周年記念「世界の民藝」展開催。 1997年 開館30周年記念「東洋の民藝」展開催。 2007年 開館40周年記念「李朝民画」展開催。 2013年 愛媛民藝館 公益財団法人化。 2017年 開館50周年記念展「大津絵がやってくる」開催。 |
年数回、手仕事関係の特別企画展が行われている。〔伊藤信之 木工展(2015年)の様子〕 |
型絵染作家・岡村吉右衛門による大作「日本民藝地図」が常設展示。(昭和43年ごろ製作) |
来館した方はお茶をいただくと思います。これは初代館長だった文野千栄子氏のおもてなしの精神を受け継いでいるようです。文野館長は設立・開館準備に奔走し、開館後は玄関に打ち水をしたり、ときどき茶会を催したり、花を生けたりするなど細々と気を配られ、来館者をもてなしたと聞いています。
おもてなしの心、親しみやすさなどはその頃からの伝統なんですね。
50周年の節目を越えて、これからの愛媛民芸館の役割は何か
愛媛民芸館は2017年に開館50周年を迎えました。日本民藝協会発行の雑誌「民藝」などで特集があり、ご存じの方がいらっしゃるかもしれません。
同館は四国唯一の民芸館。建築は土蔵造りの様式で倉敷アイビースクエア、倉敷国際ホテルなどの設計で知られる浦辺鎮太郎です。
周辺の桜、つつじ、菖蒲、ツワブキなど四季折々の花が出迎えてくれる。 |
玄関に向かって左側が西条郷土博物館、右側が民芸館であり、もともと郷土博物館とつながっているので、自由に行き来できます。
収蔵品は約2000点で、陶磁器を中心にいまは貴重なものがほとんど。民藝が近年再び注目されるにつれ、メディアの露出が増え、そのため県外からの来館者も多くなっているようです。
これから、民藝のみならず、手仕事や作り手の想いを伝え、後世につないでいくのが同館の役割なのだと想像しますが、柳宗悦は「手仕事がなくなると日本がなくなる」というようなことを言っていると聞きました。人と手仕事のものをつなぎ栄えある民芸館でありつづけてほしいと思います。
(文責・加藤義行)
公益財団法人 愛媛民芸館
〒793-0023愛媛県西条市明屋敷238-8
TEL:0897-56-2110
http://ehimemingeikan.jp/index.html
《参考文献》
・『民藝』2017年12月号(日本民藝協会)
・NHK趣味どきっ!「私の好きな民藝」(NHK出版)
・『民藝の日本』日本民藝館(監修)(筑摩書房)